199X年。

世界は、暴虐が満ち、無法者が魑魅魍魎の如く跋扈する凶乱の時代に・・・っ!









ならなかったんだなコレがっ!
警察機構はより統制をとって動き、悪党どもは一層肩身が狭い思いをすることに・・・。
政府の政策も当たり、中々民衆の不満も起こりません!ヤクザさんも大人しくなりました。

暴虐の世紀末なんて夢のまた夢。と、そんな平和な世にも悪を考える人物がいた。


「うーん・・なんか面白い悪事ないかな〜?」

彼、サラマンダー・藤原である。

新興・芸能会社、「ワルサーシヨッカー」の社長にして、芸能会社の今の出世頭と注目を集める社長である。しかし!それは表の顔に過ぎない!彼には、悪の魔力ジャアクキングによって世界制服を目論む悪の親玉としての、もうひとつの顔があった!

ハズなんですが、ココ4回ほどの悪の計画を対抗勢力、愛と正義を掲げる妖精とガールズのアイドル集団、プリキュア・オールスターズ、通称PCAのお嬢ちゃん方に邪魔されて失敗続き。
んで、社長の癖にちょっと、いい加減飽きてきて今日は臨時休社にしてなんか面白いコトないかな〜〜と、街を練り歩いていたのだった。

しかし、そんなに都合よく面白いコトなんて転がってなく、せっかく早朝4時に出て来たのにもう30分くらいで帰ろうかと思っていたところだった。

もっともなんでそんなボケたおじいちゃんが起きるような明け方も暗いスーパー早朝に出てきたのかはワケわからんのだが、それがこのヒトの魅力なのかも知れない。

しかし、そんなサラマンダー社長に幸運が訪れた。
牛丼屋さんで朝ごはんでも食べようかとおもった時だった。
工事現場付近に巨大なバイクに股がったヘルメット姿の怪しい男を見つけたのだ。

(?なんだ?)


「フンッ!帰って来たぜ・・・ケンシロウ。今度こそお前に立場をわからせてやる。兄より優れた弟など・・・」

なにやら一人で誰かの写真を持ってブツクサ言っている男、おもむろにその写真を宙に放り投げ、背負っていた銃を構えると、

「いねえっ!」

と、ど真ん中をズドン!と撃ち抜いた。

その一部始終を見ていたサラマンダーは感動にうち震えていた。

(なっ、何だあの凄い銃の腕は!?それにあの傲慢な物言い・・・素晴らしい!あれこそ、長い間私が追い求めてきた悪党だ!欲しいっ!何としてもあの男がっ!)


そう思うと、サラマンダーは思わずその怪しいヘルメットの男に駆け寄っていた。

「キミ、素晴らしいよ。是非とも私に力を貸して欲しいっ!」

「ん〜?誰だ?キサマ」

「あ、失礼。私は・・こういう者だ」

サラマンダーは振り返った男に威圧的に尋ねられ、懐から名刺を取り出した。

「芸能会社・ワルサーシヨッカー、・・代表取締役だとぉ?企業社長が何の用だ?」

「是非、私に力を貸して欲しいのだ!私はずーっとキミのような素晴らしい悪党を探していた!正に私の理想の悪党だ!」

「ほほう、キサマ中々見る目がありそうだな。俺が必要・・か。いいだろう。話してみろ、内容によっては聞いてやらんでもないぞ?」

「実は・・・」

そう言うとサラマンダーは、こともあろうに、自分の会社の本当の目的、ジャアクキングのことや、プリキュアのことまで、何から何まで事細かにしゃべってしまったのだ。
相手が物騒な事を抜かしていた。危なそうな初対面のヘルメット男にも関わらずだ。
すべてを聞き終えたその男は、突然「ククク・・」と笑い出した。
訝って見るサラマンダーに、ヘルメット男はこう告げた。


「そんなやり方で悪の組織を名乗っていたか?甘い!甘過ぎるっ!まったくもってやり方が甘いわ!」

「えぇっ!?あ、甘いの・・か?私のこれまでのやり方がっ!?」

「その通りよ、それでは敵に付け入る隙を与えてしまうぞ?悪とはもっと攻撃的に攻めねば!俺についてこいっ!俺が本物の悪事のなんたるかを教えてやる」

「えっ!?そ、それでは、我々の仲間に!?」

「俺もある男を追っていてな。そのためには今よりもっと多くの悪事に手を染めねばならん。お前の会社が悪事を推進する会社なら俺にとっても都合がいい!」

「ではっ!」
「ああ、俺達で、この平和ボケした世の中に悪の華を咲かせてやろうじゃねえかっ!」
「素晴らしいっ!キミは・・いや、あなた、お名前は?」
「フン、名乗る程のもんじゃねえさ。さあ行くぞ!悪のために!」

2人はガッチリと腕をくみ、そしてハーッハッハッハ!と笑いあった。
ここに、悪の同盟が成り立ったのである。
早朝5時に駅前に上がった高笑い。


「おーい、ソコの2人組。ちょっといいかなぁ〜?」

そんな2人にかかった呼び声・・・











「いや、コレ、モデルガンですし・・・ちゃんと人の居ない方に向かって撃ってますし・・・」

「朝っぱらから大の男が肩組んで大声上げて笑ってたんだろ?どっからどう見ても不審者だろーが!アンタ名前は!?」

「あ、ジャギといいます。霞邪義・・」
(・・ジャギさんていうんだ)

吉祥寺駅前派出所。

早朝から騒いだコトで、お巡りさんに見つかり、2人で取り調べを受けている真っ最中。
サラマンダーが芸能会社の社長であったためか、短時間の説教で恩赦となったが、ヘルメット姿の悪党、ジャギさんは不機嫌だった。

「チッ!クソポリが!無能のくせして偉そうにしやがって!!」

道端のカンを蹴りつけ、のしのし歩くジャギ。その後ろからサラマンダーが声をかけた。

「ジャギさん、あの・・・大丈夫ですか?」

「フン、問題ねえ。それより早速やるぞサラマンダー!」
「え?やるって、何を?」
「決まってるだろう!悪事だ!」
「おおっ!早速ですか!」
「ああ、お前の悩みのタネである・・ぷ・・・プリン?ぷりぷり?・・プリたら?」

「プリキュアです」
「おおソレだ!ククク、見てろよケンシロウ!今からお前の名を語って、プリキュアを困らせ、悪の限りを尽くしてやるからなあっ!」

そう息巻くジャギに、サラマンダーは期待するとともに、「ケンシロウ?だれ?」という疑問を感じたという。









「つぼみ〜!お客さんだよぉーっ!」

私立・愛治学園中等部2年E組の教室前。
ややウェーブがかかったダークブルーの髪が特徴的な少女、来海(くるみ)えりかはクラスメートで親友の花咲(はなさき)つぼみを大声で呼ばわった。
そのえりかに、濃い桜のロングヘアを左右でしばった少女、つぼみが振り返って答える。

「お客さん?・・誰ですか?」

「へっへ〜、つぼみのボーイフレンド!」

ボーイフレンド?その言葉に「?」を浮かべたつぼみだが、えりかの横から現れた少年を見て声をあげた。

「久しぶり・・つぼみ」

「オリヴィエ!」



「ゴメンね。突然会いに来たりなんかしてさ・・」

「いいんですよ。気にしなくて、今日は放課後、5時からPVの収録があるだけですから」

「『ありがとうがいっぱい Thank You for ALL』だったっけ?遊園地借りきってやるんだよね?」

「詳しいですね!ビックリです」

「い、一応、ファン・・・だしね」

照れたように頬をかくその仕草が妙に可笑しくて、つぼみは笑った。
教室から校舎外へ出た、中庭の丘。
髪をなぶる風が気持ちいい。つぼみとオリヴィエを風が優しくつつんでいるようだった。

藤原オリヴィエ。
この少年の名前だ。藤原という姓からわかる通り、このオリヴィエという少年、つぼみたちプリキュア。PCA21のメンバーと敵対する組織、「ワルサーシヨッカーの社長、サラマンダー・藤原が一子である。
初めてつぼみと出会ったのはちょうど1年前、学園の小中学生合同の遠足でのことだった。
つぼみと一緒の活動グループにオリヴィエが割り当てられたことがきっかけだった。
当初、オリヴィエの素性などつぼみは全く知らなかったのだが、オリヴィエは父の仕事の関係上つぼみがプリキュアであることを知っていた。
そのため、 最初はつぼみのことを意図的に避けていたのだが、そんなコトなど知らないつぼみはオリヴィエに優しい笑顔でドンドン接してくる。

無視しようとも思ったのだが、あまりにしつこく世話を焼こうとするので、とうとう人気のない場所で自分の正体を明かしてやった。自分がつぼみたちプリキュアと対立する組織のボスの息子だということを、自分とつぼみはお互いに敵同士だということ。
ところが、つぼみは何を考えているのか、正体を知った後も自分に変わらず優しく接してくれ、これには流石のオリヴィエも参ってしまった。
何故敵であるハズの自分にここまで親切にしてくれるのか全く分からなかった。気になったのでそれとなく聞いてみた。すると・・・

「例えあなたのお父さんがそうだったとしても、あなたにカンケーありません!あなたは小学6年生で、私は中学1年生。同じ学校の先輩後輩です」

笑って、しかし力強く答えたという。
これを聞いてオリヴィエも降参。ワルサーシヨッカーの身内でありながら、つぼみと仲良くなってしまったのだ。しかも、同じメンバーのえりかやゆりとも友人関係になり、とうとう今ではPCAメンバー全員と顔見知りになってしまったのだった。
この事は父には内緒であるが、プリキュアのファンクラブにも入会している。それで、時々こうやってつぼみと会ったりするというワケだ。


「お父さんとはどうですか?オリヴィエ」

笑顔でいきなり答えにくい事を聞くつぼみに、本当に自分の父親が敵対組織のボスであるとの理解があるかどうか疑わしく思うオリヴィエだったが、長めのライトブルーヘアを撫でながら答えた。

「どう?って・・ウン、フツー・・・かな?」

「なんですぅ〜?その言い方?ちゃんと仲良くしてるんですか?」

「あー、もう!してる、してるよ!ったく、父さんは敵のハズだろ?なんでそんなに気にするんだよ?」

「敵ってなんですか?私は友達のお父さんのコトを聞いてるだけですよ?サラマンダーさんはそんなに悪い人じゃありませんよ。オリヴィエもいつまでも気にしないで下さい」

まったく、と言いながらそっぽを向くオリヴィエだが、そんなつぼみの底抜けの優しさが、実は嬉しかった。何だかんだ言いながらオリヴィエがつぼみとこうして付き合っているのは、結局そんなお節介焼きな彼女が好きだからだ。

「元気だよ。でも、今日はいきなり会社を臨時休業日にしてたな」
「へぇ〜・・何かあったんでしょうか?」
「知らないよ。今ごろ、どこで何してるのか・・」

丘の芝の上に寝転がったオリヴィエはゆっくり空を泳ぐ雲を見ながら呟いた。









「次は〜新宿〜新宿です。お忘れものの無いよう・・」

地下鉄の車内。サラマンダー・藤原は、自らの状況に流石に恥じ入り、俯かせていた。
隣ではジャギが機嫌良くヘッドホンをして座っている。そのジャギを見て、先程からコショコショと話し声が聞こえる。

「ママ〜、あのオジサンなに〜?」 「しぃっ!見ちゃいけませんっ!」

「あ、あの・・・ジャギさん。これは一体?」

「ん〜?見てわからんかぁ?今俺達が座っている場所はどーゆー席だ?」
「はぁ・・お年寄りや、体の不自由な人の優先席ですよね?」
「そうだ!シルバーシートに大の字で座り、さらにはヘッドホンから音漏れマックス!誰もが躊躇(ためら)うような悪を涼しい顔をしてやってのける!やはり俺様悪の王!悪のカリスマ!」

「は、ハァ・・・」

豪語するジャギさんの隣でなんとも言えない顔のサラマンダー。彼の言う恐ろしい悪事とは何か気になってついてきたが、これはただの迷惑行為では?
しかし、何か言おうとしたサラマンダーは次のジャギの行動に一段と唖然とすることになる。

「そしてさらにこの一言だぁ」

ジャギはジャケットの胸元をはだけさせ、7つの傷が残る肉体を晒して車内の人間に言い放った。

「おいお前ら。俺の名を言ってみろ!」

正にシ〜〜ン。と静まり返る車内。全員がジャギの方を見て固まった。

「フッ、怖くて声も出ねぇか?ならば教えてやろう。俺の名は北斗神拳伝承者・・・」

しかし、そこまで言った直後、今度はジャギが固まる番だった。


「は?何コイツ?バッカじゃねーの?」
「気持ち悪ーい」

そんな冷たい台詞を残して、電車を後にしていったのだ。後から来た人間はもはやジャギに見向きもしない。

「ケンシロ・・・」

ぷっしゅ〜〜っ・・・ ピロリロロロロ・・・

「・・・」
「・・・あの、ジャギさん・・・?」

ひんやりとした空気を感じ取ったサラマンダーが、ジャギに声をかける。声をかけられたジャギは若干声を震わせながらも強気に言い放った。

「フンッ今回はたまたま不発に終わったが・・・だが、見てろよ、俺の本気はこんなもんじゃねえ。次こそは身も凍るほどの戦慄の悪を味わわせてやる」


ところ変わって駅前のハンバーガーショップ。

「あっれぇ〜〜ヘンだなぁ〜。トレイが全部ゴミ箱に捨てられてるぞ」

ハンバーガーショップの店員が、店のトレイが全部ゴミ箱に捨てられているのに気がついた。
明らかに人為的なものだ。誰の仕業かと考えを巡らせた時、背後から突然何者かが現れた。

「俺の名を言ってみろっ!」

ジャギが店員に上着をはだけさせ、7つの傷を晒しながら叫ぶ。
しかし・・・

「ったく、一体誰がこんなこと・・タチの悪いイタズラだなぁ〜」

ここでも店員はジャギに見向きもせず、自分でトレイを片付けるとそそくさとレジの方へと消えてしまった。
サラマンダーは1人、小腹が減ったのをハンバーガーとコーラで癒しながら。ジャギを悲しい眼で見つめていた。

「あ、あのぉ・・ジャギさん?その・・・帰りますか?」

「フッ、まだまだ・・俺の悪事はこんなもんじゃあねえっ!!次こそは、俺の悪党としての恐ろしさを・・・」

ところ変わって公衆便所。

「うわっ!なんだコレ、トイレットペーパーが散乱してる・・」
「俺の名を言ってみろ!!」

「・・・まあ、いいや。別の場所入ろう」

「何ィっ!?」

ガーン!とした表情のジャギさんをサラマンダーも、用を足しながら見物。
またまた冷たい反応。しかしジャギは諦めない。

「うおぉっっ!今度こそっ!今度こそォ!」

ところ変わって駅前自転車置き場。

「あららら?なぁんだよ。チャリがみんな倒れてら。一体どうしたんだ?」
「俺の名を言ってみろォっ!!」

今度は自転車置き場の自転車をみんな横倒しにするという暴挙にでた。これなら流石に自転車を置いていた人も困るだろう!しかし・・・

「突風でも吹いたかな?ヨッコイショ!」

しかし、男の人は特に怒るでもなく、自転車を起こして乗り去ってしまった。

「なっ、何故だ!?何故どいつもこいつもこの悪を見逃すことが出来る!?」

それはやってる悪の規模がちっちゃいからでは?と、正直おもったが、そこは声に出さずにジャギさんをただ温かく見守るサラマンダー。
めげずに次は集団で下校中の女子高生に向かって・・・

「俺の名を言ってみろォーっ!!」

『きゃあぁーーーーっっ!!』

突然現れたヘルメット姿の怪しい男に、女子高生たちは渾身の悲鳴を上げた。








「いや・・全然そんなつもりは無くてですね・・・服もちゃんと着てましたし・・・ 」

「上着の前はだけさせて俺のナニを握ってみろ〜、とか言ったんだろが?100パー変質者だ!」

「それはもう完っっ全に誤解です・・」

吉祥寺駅前派出所。
またまた、今度は変質者容疑でお縄になったジャギさんは、お巡りさんに必死の言い訳。
そばで見ているサラマンダーも、(アレは誰でも誤解するだろ。)と少々呆れ顔。
再びサラマンダーの口添えもあって釈放されたジャギだが、不満は頂点に達していた。

「チッ!国家の犬がっ!税金無駄遣いしやがって!!」

道端の看板を蹴りつけつつ、歩くその姿にサラマンダーが言った。

「あの、ジャギさん・・今日のところはもう、帰りませんか?」
「バカを言え。今更帰れるか!俺のことなら心配無用!」

正直言えばアンタよりこのままだと巻き込まれる自分が心配なのだが、と思ったサラマンダーだが、それは言わないでおく。

「もうぶちギレたぜ!メチャクチャやってやんよ!ついてこいっ!サラマンダー。これから究極の悪事を見せてやる!」

「きっ、究極の悪事?」

「そうだぁ!それに比べれば今までの悪事などお遊びよぉーっ!身の毛もよだつ、常人卒倒必死の悪事だ!」
「おおっ!それですよ!ソレ!そんな悪事を待ってたんです!」

めげない2人の悪党の声が、駅のホームに響いた。






「ハイ!じゃあ今日のレッスンはここまで!みんな今日間違えたところは各自個人レッスンしておくこと、いいわね」

『は〜〜い!』

『お疲れ様でしたーー!』

秋葉原。PCA21のホームレッスンダンススタジオ、スタジオPCA。
今日のメンバー合同のダンスレッスンを終え、充実感と疲労に満ちた声が上がった。

「つぼみ、お疲れ様」
「あ、オリヴィエ。ありがとう!」

オリヴィエが藤田麻美耶と一緒にタオルと飲み物を持ってレッスン室に入って来たのは、2分程経ってからだった。

「レッスン、キツかったでしょ?」
「ええ、でも、みんな一緒にレッスンしてましたし・・・オリヴィエも・・応援してくれましたから///

///えっ!?いや、ボクはただ、・・///

タオルと飲み物を受け取りながら、渡しながら紅くなるつぼみとオリヴィエ。
そんな2人に、横からえりかが割り込んで来た。

「なになになぁにぃ〜〜?周りも見ないで随分イイ雰囲気じゃないのよぉ〜♪」

「うわあっ!?」
「えっ、えりか!そ、そんなんじゃないですっ私達はただ・・」

「焼けちゃうなぁ〜つぼみちゃんったら、あ〜アッツイアッツイ」

「もう思いきって付き合っちゃうとか?あ、でもアイドルにとってスキャンダルになっちゃうかも?」

「実際のトコどーなの?ホラ、おねーちゃんに教えてみなさい!♪」

真っ赤になってえりかに反論したつぼみだったが、面白半分に日向咲や蒼乃美希。美墨なぎさ達、先輩プリキュア達までもがからかってくる。
つぼみとオリヴィエはすっかり赤くなって俯いてしまっている。
その様子をみた松風レイナは、2人の初々しい姿を微笑ましく思いながらも、ポンッポンッと手を叩いて呼び掛けた。

「ほらほら、明日はみんなまた学校もあるんだから今日はもう帰ってゆっくり休むコト。宿題や明日の授業の準備も忘れずにね」

その言葉に、中には不満の念が入りつつも、「は〜い」と答えたプリキュアメンバー達。
ホッと息をついたのはもちろんつぼみとオリヴィエである。

「つ〜ぼ〜み!v♪」

「えりか!?・・今度はなんですか?」

「エヘヘ〜〜w今からみんなでちょっとお茶してこうよ!こないだママがこの近くにオシャレなカフェ見つけたんだってさぁ〜ねぇ行こうよ!」

レッスン室を後にしようとした正にその時、またしてもえりかがつぼみに抱きついて来た。
今度は何だという反応のつぼみに、えりかは笑顔でお茶にいこう!と誘ってくる。無邪気で誰にでも気さくなのは何よりの彼女の長所だが、少々周りの空気が読めなくなるのは困ったものだ。
オリヴィエはもとより、流石のレイナ先生やマミヤ先生も彼女の早すぎる行動に唖然としている。つい今しがた、今日はゆっくり休むために早めに帰りなさい。と言ったばかりだというのにだ。

「・・・みんなって・・一体誰が来るんです?」

「えっとねぇ〜〜・・誘ったのは、ゆりさんと、いつきと、こまっちゃんとひかりとミキちゃんと咲ちゃんと舞ちゃん!ね?だからつぼみもおいでよ!もちろんオリヴィエも一緒にさ!」

「ええぇぇ〜〜〜っっ!?」

今度大声を上げたのはオリヴィエだ。そりゃそうだろう。
つぼみや他のプリキュアメンバーと知り合いになってるとは言え、自分はあくまで敵側の人間である。その自分が対立組織の人間とカフェテリアで堂々とお茶などどう考えてもふざけている。
事情を知っているマミヤやレイナも、このえりかの言葉には冷や汗ものだった。

「ねえねえ、先生〜〜いいでしょぉお〜〜?」

駄々をこねる幼児のようにマミヤの袖口をぐいぐい引っ張るえりかにマミヤも困り顔。

「えりか・・自分の意見にいつでも周りを巻き込まないって、いつも言ってるでしょ?」
「そうよ、オリヴィエくんにだって予定があるでしょ?」

「いや・・予定は・・・別に無いんだけど、いいの?ホントに?」

「オリヴィエさえよければ・・いいんじゃないですか?先生」
「ええ、私も実はオリヴィエさんと一度ゆっくりお話したいと思ってましたから」

最年長のゆりとしっかりもののこまちの言葉にがぜんノリ気がでてきたPCAメンバーたちは次々と賛成の意見を口にした。

「そうですね♪私もちょっとしかお話したことないですもん!楽しみになってきちゃった」
「えりかのお母さんが見つけたっていうカフェにも興味あるし・・あぁ〜〜vおいしいケーキとかあるのかなぁ〜?」
「ぼくもあらためてオリヴィエをよく知ってみたいし・・いいんじゃないかな?」
「ま、今日の私服は青と花をテーマに完璧にキメてきたから、寄り道くらいいいわよねぇv」
「うふ、よろしくね、オリヴィエさん」

ひかり、咲、いつき、美希、舞までもが次々と期待の声をあげるので、とうとう先生も根負けした。

「どうします?先輩」

「しょうがないわね。まぁいいんじゃないかしら?オリヴィエくんがウチのコ達をどーこーしようとしてるワケじゃないし・・たまには。私たちもついていけばいいんだし」

「やったあぁ〜〜vえへへ決まり決まりぃ〜♪♪行こう行こう!」


「ちぃ〜っス!お疲れでーす。」

「あ、バットさん!それにケン先生!」

先生の了承にえりかが歓声を上げてガッツポーズを取ったまさにその時、背後のドアからバットとケンシロウのアルバイト2人組が入ってきた。

「ねえねえ!バットさんもケン先生もアタシ達と一緒にお茶しにいかない?」

「はあ?いきなりなんだいえりかちゃん?どーゆーこと?」

バットがいつも通りいきなりなえりかの言動につまづき、助けを求めるようにマミヤとレイナの方を見ると、かいつまんで2人が事情を説明しだした。


「なぁるほどぉ・・ま、そういうコトなら、いいんじゃね?な、ケン」

「ああ。食費が浮いてむしろ助かる。マミヤ・・・金がないのだ。深刻に・・・奢ってくれ」

真面目な顔でサラリと悲壮感の漂うセリフを言うケンシロウに、バットはガクっと頭を垂れ、こまち、いつき、ゆり、舞、美希のしっかり者は冷や汗混じりの苦笑を浮かべた。



「いいかサラマンダー、ここで待っていろ」

「いいですけど・・PCAのスタジオで一体何するんです?案内しろといわれましたから一応しましたけど・・・」

「フッ、言わなかったかサラマンダー・・これから身の毛もよだつような究極の悪事を働くと!黙ってここで待っていろ!」

「あ・・は、ハア・・・」

得も言われぬ勢いに、サラマンダーは黙るしかなかった。
所は敵の本拠地、PCA21本部「スタジオPCA」前であった。

「見ていろよケンシロウ・・・ここより、お前への復讐と俺の悪の伝説が幕を開けるのだぁ!クククククククク・・・・」

 

 

「お姉さ〜ん♪オーダーお願い!」

「はーい、ただいま!」

コジャレたヨーロッパ風の店内。来海えりかの甲高い声がウエイトレスを呼ぶ。
柱はギリシャ風のパルテノンデザインで、全体的に白い様相の店内は古代ローマをテーマに近代アートを取り入れたモダンなデザイン。
リーズナブルなコストでスタイリッシュイタリアンとカフェが頂けるこの最近流行りのこのお店。オシャレな西洋式店の名前は・・・

「いらっしゃいませ!カフェ・キバファミリーにようこそ!」

何となく危なそうなネーミングだった。

「えっとねぇ〜、アタシ、イタリアンショートケーキセット!ドリンクは・・特製オレンジソーダ!」

「あ、アタシもソレぇ!えっとぉ、アタシドリンクはイチゴシェイク」

「アタシは・・よし、このトリプルベリーのフルーツパフェ・イタリアンジェラートとともに・・ていうのにしよう!」

まず真っ先にえりかと咲がオーダー。それに美希が続いてオーダーする。

「僕はこのマンゴーゼリーのトロピカルフルーツ添えっていうのをもらおうかな?」

「えっと、この、季節のフルーツベルギーチョコレートフォンデュ、を・・」

「じゃあ私は、この抹茶とバニラジェラートのクリームあんみつを1つ」

「えっとぉ、3種類のジェラートのイタリアンクレープ1つ」

「ティラミスと、アイスコーヒーで」
続いて、いつき、舞、こまち、ひかり、ゆりの残りの女子がオーダー。

最後に

「オリヴィエ、この期間限定、さくらのアイスクリームワッフル添え美味しそうですよ!」

「じゃあボクもそれを」

つぼみとオリヴィエがオーダーした。

流石に女の子なのか見事にスイーツづくしである。また夏に季節が移りかけなのからか、全員が冷たい飲み物をオーダーした。
バットは仕事上がりだった為、

「じゃあ、自分にご褒美、ヨーロピアンビールとチーズの盛り合わせv」

とアルコール。

「じゃあ、私達もケーキセットにしましょうか」

「私も先輩と同じの!」

マミヤとレイナも、ケーキセットをオーダーした。そして残ったこの男。

「ケンはどうする?食費がどうこう言ってたからお腹にたまるものがいいでしょう?このピッツァとパスタのボリュームプレートにする?」

「ああ、喰えればなんでもいい。贅沢は言わん」

「じゃあそれで、」

「ありがとうございます!ボリュームプレートの方の飲み物は冷たい飲み物、温かい飲み物、どちらになさいますか?」

ウエイトレスがそう尋ねた瞬間だった。

「アタタタタタタタタタッッ!!・・かい方を・・」

「!?・・え?」

「す、スイマセンっ、温かい飲み物お願いします・・」

気をきかせたゆりが代わりにオーダーする。
冷や汗をかきながら「か、かしこまりました・・」とメモをとるウエイトレス。
バットはケンシロウを睨み付け、他のメンバーも顔を赤くして俯く。

「ケン・・・お前ウエイトレスビビらせる為にやってんのか?フツーに頼めフツーに!」
「そんなつもりは無いが・・」

バットの追及も何のその。涼しい顔をして答えるケンシロウ。その姿にウエイトレスは気を取り直し、あらためて聞いた。

「あ、あの・・お飲み物の種類はどうされ・・」
「ほあっちゃあぁーーーっ!!」
「きゃあぁーーーーっっ!!」

再び上がった怪鳥音に、ウエイトレスは今度は頭を抱えて踞った。
周りの席にいた客も何事かとこちらを見ている。

「あ、あ・・すっすみません!た、多分ほあ茶です。ほあ茶」

「あ、は、ハイ・・・ほあ茶おひとつ・・少々お待ちください・・」

力なく戻っていくウエイトレス。プリキュアメンバー達はもう真っ赤になって俯き、マミヤやレイナも冷や汗だった。

「ケン・・・絶対ワザとやってんだろ?」

「いや、そんなつもりは無い」

バットの問いに、偉そうに答えたケンシロウだった。


「あーー!おいしかった♪」
「ホント!あのお店いい店ねぇ〜また行きましょv」

カフェからの帰り道、えりかと美希が今日のお店を絶賛していた。
少々のハプニングはあったが、料理が出てくるともう気分は最高潮!スイーツに舌鼓を打ち、ガールズトークに存分に花を咲かせた。
とくに、オリヴィエとメンバーとの会話は弾み、同じ学校の生徒ならではの会話を楽しんだ。


「オリヴィエくんがこんなにイイコだったなんて、なんかイイ意味で期待裏切られたって感じ!」
「そうね、オリヴィエくんもいろいろ頑張ってるのね」

「あらためて見直したよ。僕たちも頑張らないと」

「今日は、いいお茶会になりましたね」

「本当ね。今日は本当に楽しかったわ。ありがとうオリヴィエさん」

メンバー1人1人からお礼を言われ、顔を赤らめるオリヴィエ。
つぼみも本当に嬉しそうにオリヴィエに笑いかけている。
マミヤとレイナも嬉しそうに微笑んでいた。
しかし、駅に向かう道の途中、スタジオPCAを通りかかった時のことだった。
正面玄関前に何者かの影を見つけたのだ。

「あの〜、ウチのスタジオに何かご用でしょうか?」

マミヤがそう尋ねた瞬間だった。
「ん?」

『あぁぁーーーっっ!!』

という、叫びが重なった。

プリキュアメンバー達とオリヴィエ。そして正面の男が互いに指を差しあって叫んだのだ。

「サラマンダー社長!」

「父さん!?」

「オリヴィエっ!?それに、プリキュアガールズ!ミス・マミヤ、それにミス・レイナまで・・」

「えっ?え!?・・知り合いか?ゆりちゃん」

「サラマンダー・藤原。ジャアクキングの魔力を持つ私たちの敵のリーダーです。そして・・・オリヴィエのお父さん」

「敵のボスですぅー!」
「悪い奴なんでしゅうー!」

「いつもプリキュアのみんなをイジメる悪い奴ラピ!」
「悪いコトして困らせるチョピ!」

「ポルン達の大嫌いなジャアクキングの魔力を使ってるポポ!」

それまでぬいぐるみやケータイストラップに成り済ましていた、シプレ、コフレ、ポプリ、フラッピ、チョッピ、ポルンも騒ぎ始めた。

なるほど、奴が敵の親玉か。とバットは素早く理解した。
それにしても、魔法だ妖精だ変身だと聞いても見ても大して驚かなくなった自分に少々ビックリだ。

「オリヴィエ、父さんがこの時間まで仕事をしてるというのに・・お前はなんでプリキュアのお嬢さん方と呑気に遊んでいるんだ!?嗚呼、情けないっ!父さんはお前をそんな風に育てた覚えは無いぞ」

「何言ってんだよっ自分から今日は気分が乗らないから会社休みにしよーって言ってたクセに!」

「えっ?い、いやぁ〜〜それは・・・おっと、イカンイカン!挨拶を忘れていた。グッドイブニぃ〜ング。プリキュア戦士のお嬢さん方」

「今さらあいさつとかいらないわよ!」
「ってか、この時間に何してんの?1人で夜にスタジオ前ウロウロして、キモチ悪い・・」

「あ!ムカッなんて口の悪いコ達なんだ!そんな悪いコちゃんはやっぱり悪の魔力でお仕置きだ!」

「父さんっ!もうやめてくれよ。つぼみ達、僕にとっても親切にしてくれたんだよ?」

「残念だが、父さんには果たすべき使命がある!ワルサーシヨッカーの目的達成の為にはどうしてもプリキュアのお嬢さん方とは戦う運命にあるようだ。さあ、来いザケンナー!」

サラマンダーが両手を天に掲げて叫ぶと、濃い紫色の霧が現れ、付近にあった自動販売機に乗り移り、あっという間に怪物が出現した。

「あーあ。また何か出てきたぜ」

「さあ、ザケンナーよ!プリキュア戦士のお嬢様方をイジメてやりなさい!」

「ザッケンナー!」

「みんな、行くよ!」

『オーケーっ!』

えりかの号令にそれぞれ変身アイテムを構えた。

『プリキュアの種行くですぅー!』

『プリキュア・オープンマイハート!』

「「デュアルスピリチュアルパワー!」」

「ルミナス・シャイニングストリーム!」

「プリキュア・メタモルフォーゼ!」

「チェインジプリキュア・ビートアップ!」

それぞれ、変身アイテムから流れる光につつまれ、変身する。

「大地に咲く一輪の花、キュアブロッサム!」

「海風に咲く一輪の花、キュアマリン!」

「日の光浴びる一輪の花、キュアサンシャイン!」

「月光に冴える一輪の花、キュアムーンライト!」

「輝く金の花、キュアブルーム!」

「きらめく銀の翼、キュアイーグレット!」

「輝く命、シャイニールミナス!」

「やすらぎの緑の大地、キュアミント!」

「ブルーのハートは希望のしるし、摘みたてフレッシュ、キュアベリー!」


『やあぁーーっっ!』
「ザケンナぁーーっ!」

スタジオPCA前でプリキュアと化け物が大暴れ。
その喧騒を感じとったのか、付近から大勢の野次馬が集まって来た。

「なんだなんだ?」「うわっ?なんだあの化け物?」「ん?アレって、PCA21のメンバーじゃないか!?」

口々に野次馬達がいうものだからマミヤもレイナもすっかり困ってしまった。

「どうしましょう?先輩・・」
「マズイわね・・こんな中で正体が知れたら」

しかし、2人の悩みはあっさりと野次馬達の一言で解決した。

「なんだ、ドラマかショーの撮影か」
「練習じゃないか?カメラねーし」

その言葉に、マミヤとレイナもホッとして、「そうなんですぅ〜」「まだ公開前なのでその時まで楽しみにしておいてくれませんか?」とうまい具合に野次馬を遠ざける。
その間にも戦いは続いていた。

「ザーケンナー!」

ザケンナーの缶のミサイル攻撃。ミントが前に出る。

「プリキュア・エメラルドソーサー!」

そのことごとくが緑の円盤に阻まれる。

「たあっ!」
「はあっ!」

隙をついてブルーム、イーグレットがコンビキックで自販機ザケンナーを攻撃。

「えーいっ!」

ソコをすかさずにベリーが飛び蹴りで追撃!大きく体制を崩して派手にすっ転ぶザケンナー。

「ルミナス・ハーティエルアンクション!」

さらにはルミナスが敵の動きを止める魔法を放つ。

「皆さん!今です!」

「プリキュア・ピンクフォルテウェーブ!」
「プリキュア・ブルーフォルテウェーブ!」
「プリキュア・ゴールドフォルテバースト!」
「プリキュア・シルバーフォルテウェーブ!」

ブロッサム達の魔法が炸裂。化け物は「ザーケンナー!」という声とともに消え去った。

「う〜ん、なかなかやるねえ。伊達にウチの社員を退けて無かったか」

敵ながら見事な連携にウンウンと頷くサラマンダー。

「父さん、今日のところは帰ろう。ね?つぼみ達だってこれからもう帰って・・あっ!」

父に近づいて帰ろうと訴えるオリヴィエの上着ポケットから、PCA21の新作シングルCDがカシャンっと落ちた。

「ん?なんだコレは?・・!コレは!?プリキュアのCDじゃないか!?」
「わあっ!返してよ!」

サラマンダーの手から必死にCDを取り返そうとするオリヴィエ。だが、そんなオリヴィエの手から強引にCDを奪い取ると・・

「イカ〜ン!没収だ没収!」

そう叫んで近くの立ち入り禁止と書かれた廃ビルに入っていってしまった。

「ったく、しょうがないなぁ・・」
「許せません・・いくらお父さんでも、勝手にオリヴィエのものを取るなんて・・」

「え?つぼみ?」

自分の傍らでめずらしく怒りに燃えるつぼみに、驚いて声をもらしたオリヴィエ。

「い、いいよ別に。また買わせてもらうから・・」
「よくありません!アレはオリヴィエのものですよ、それなのに、私・・堪忍袋の緒が、キレました!!」

そう叫んでサラマンダーを追って自分も廃屋に走りだした。

「待ちなさいつぼみ!ソコには入っちゃダメ!」
「ソコは立ち入り禁止でキケンなの。だから戻って来なさい」

「で、でも!」

立ち止まってマミヤ、レイナの方を見るつぼみ。2人とも本当にダメっ!という厳しい顔。

「オリヴィエのCD、取り返さないと・・っ」

「つぼみ。先生の言うこと聞けないコは、どうなるんだった?」

レイナに凄まれて思わずビクッと体が硬直するつぼみ。約束を守れないコや先生の言うことを聞かないコがどんな目にあうのか、もちろんつぼみだって知っている。
でも・・・

「やっぱり私・・許せませんっ!」

「つぼみっ!ダメ!」
「つぼみぃっ!」

よほど意志が固かったのか、つぼみは先生達の忠告を無視して、サラマンダーを追って廃ビルの中に入っていってしまった。
とうに変身は解けてしまっている。

「まったく、あのコったら!」
「先輩、私行きます」

「待て」

ソコでマミヤたちの背後から待ったがかかった。見るとさっきまで一言も発っさなかったケンシロウが、ビルを見上げて言った。

「俺が行こう」


「待って下さい!」

「ん?アレ?キミは確か・・キュアブロッサム。花咲つぼみくん、だったかな?」

「そのCD、オリヴィエに返してあげて下さい!」

ビルの屋上近くの一室。
暗がりに紛れて逃げようとしていたサラマンダーを発見し、つぼみが声をかけた。サラマンダーの方も、まさかここまで追ってきたか?と驚き顔。

「悪いがそれは出来ないな。オリヴィエの付き合いにまでどうこう言うつもりはないが、流石に商品まで持っているのはマズイだろう。一応、彼も次期社長だからね」

「そんなの、あなたが勝手に決めたコトじゃない!それに、それは私がオリヴィエにプレゼントしたんです!だから・・っ」

「何を言われてもダメなものはダメだ。ほら、子どもはもう帰る時間だよ」

「・・・ャです」
「ハァ?」

「イヤです!そのCD」

言うが早いかつぼみはサラマンダーに向かって駆け出していた。

「返してっっ」

「わ!!やめなさいっ!ココは元々手抜き工事で、その上最近は腐食が進んで極端に脆くなって・・・っっ」

サラマンダーがそう叫んだ瞬間だった。

ボ ロ ッ

途端にズンッ!という轟音が響き、ズゴゴゴゴゴッッ!!と音を立ててビルが崩壊し出した。

「チイッ!」

サラマンダーは巧みに体制を立て直すと、崩れ落ちる破片に器用に足をかけ、安全に着地した。
しかしつぼみはと言うと・・

「きゃあぁーーーーっっ!!」

未だ崩壊したビルに取り残され、今にも外に投げ出されんばかりだった。
なんとか片手を傾いた鉄柵にかけて持ちこたえてはいるが、もう落ちそうだ。

「つ、つぼみぃーーッッ!!」
「きゃあぁっ!つぼみちゃんがっ!」

オリヴィエも舞も顔面蒼白。

「マズイっ!今行くぞっ!」

流石にサラマンダーもつぼみを助けようと試みるが、いかんせん壊れ始めたビルを上るのは容易ではない。そうこうしてるうちに・・・

「きゃあぁーーーーっっ!!」

ついにつぼみの手が鉄柵から離れてしまった。
もう落ちてくるつぼみを命がけでキャッチするしかない!とマミヤ、レイナ、バットが動き出した時だった。

「ほわっちゃあぁーー!!」

突然の怪鳥音とともにビルからケンシロウが飛び出し、つぼみをキャッチ。
さらに、
「アタタタタタタタタッ!」

とコンクリートの塊を片っ端から粉々に砕き、無事着地した。

「ビルはもう・・壊れている」

「あ、ありがとう・・ケンシロウ先生・・」

「つぼみぃーっ!」
「つぼみっ!つぼみーっ!」

オリヴィエとレイナが真っ先に駆けてくる。それに続いてマミヤやえりかたちも・・・

「つぼみ、ケガは!?ケガはない!?」
「へ・・平気です。ありがとうオリヴィエ。」

「まったく、一時はどうなる事かと思ったよぉ〜」

「ゴメンナサイ。心配かけました」

ケンシロウに下してもらいながら、つぼみはペロっと舌を出した。

「まったく、実に理解しがたい。なんでたかがCDのために命を張る必要がある?」

「そ・・それは・・」

言い淀んでいるつぼみを怪訝に思ったのか、オリヴィエがつぼみからもらったCDケースを開いてみた。すると・・

「あ!コレ・・」

中にはなんとつぼみの直筆サインが「オリヴィエへ」と宛名入りで入っていた。
ファンの間では超レアものとして扱われる品である。

「なぁるほど、コレが入ってたからだ」

「つぼみさんもなかなか大胆なことするんですね」

「確かに、つぼみさんの性格ならこんなコト、オリヴィエさん以外の人にしないかもしれないわね」

言われてカァーとまたまた顔が紅潮するつぼみとオリヴィエ。
向かい合ってはにかみ笑いした2人だった。


「父さん、コレ・・」
「もう仕方がないだろう。持っていなさい。だがしかしプリキュアガールズの皆さん。我らワルサーシヨッカーが諦めたわけではないということは理解しておきなさい、次こそは必ず我らの前にひざまづかせてあげよう!」

そう言ってニヤリと笑った。

「あぁ〜よかった!一件落着・・」
「「じゃなあぁーーーーいっっ!!」」

えりかの声にかぶせられた怒声。びくぅっとしてプリキュアメンバー全員が縮み上がった。
見るとそこには、世にも恐ろしい顔をしたマミヤ先生とレイナ先生がいた。

「つぼみぃ〜〜〜っっ」
「だから言ったでしょぉ〜〜・・」

「え?わっ・・わた・・し?」

「つ・・つぼみホラ!行っちゃいけないって言われたのにビルの中に入って行っちゃったから・・っ」
「あ゛!!」

えりかに言われて途端に別の意味でつぼみの顔が死人のようにサー・・と青ざめた。

「先生の言うコト聞けない悪いコはぁ〜?」
「どうなるんだっけぇ〜〜?」

「ひいっ」

逃げ出したつぼみの手をがっちりと捕まえるレイナ先生プリキュアメンバー全員が「あちゃ〜」という顔で目をつむる。

「きゃあぁぁ〜〜〜っっいやっ、イヤですぅっ!先生っごめっ・・ゴメンナサイ!」

「今さら遅い!悪いコ!」

言うとレイナはそのまま近くのベンチに腰掛け、膝につぼみを組み伏した。
もうつぼみの運命は決まっている。
唯一の救いは廃ビルの通りゆえ、人通りが今は無いことだけか・・・。

そのままスカートを捲りあげられ、真っ白のパンツも腿あたりまで下げられてしまい・・

 ぱっしぃ〜〜〜んっっ!

「きゃああぁ〜〜〜〜んっっ」

つぼみの小振りで真っ白な可愛い桃尻に、レイナの平手の一撃が打ちつけられた。
赤々とした紅葉がつぼみのお尻に花開く。

ぱしぃんっ! ぺしぃんっ! パシーンッ! ペシーンッ! ぱんっ!パンッ! ぺんっ! ペンッ! バシッ! ビシッ!

「きゃああぁっっ!ひいぃぃっっ・・ああぁぁんっ・・いたあぁいっ!いたーいっいたーいっ!いたいですぅぅ〜〜ゆるしてぇ〜〜っっ」

「私もマミヤ先生もあんなに注意したでしょ!?それなのにあんなコトになって!大けがしたり、もしかしたら最悪の事故になったりしたらどうするの!?そんなコトあなたのお父さんもお母さんもおばあちゃんだってとってもかなしむのよ!?どうしてそれがわからないの!」

「ごっ・・ゴメンなさいぃ〜〜〜っ!だって・・やっぱりCDとりかえしたくって・・」

ぱちいぃーーんっっ!

「ぎゃあぁあぁんっっ」

「それをワガママって言うんです!」

レイナは厳しく叱りつけた。
つぼみは基本的にしっかりもので、優しく物わかりのいいイイ子だ。しかし自分のこだわりが強いものがあり、それに対してはとことん頑固で譲らない面があるそれが時に今回のように悪い面に働くこともある。
そのことをしっかり反省させなければならないと思った。マミヤも同じ意見らしく、ウンウンうなづいている。

「今日はオシリ、真っ赤っかに腫れてイタクてしばらく椅子に座れないと思いなさい!」

「しょっ・・しょんなぁ〜〜えぇぇ〜〜〜んっっ・・た、たすけてぇぇ〜〜」

えりかも、美希も、ゆりもいつきも、こまちもひかりも、咲も舞も。
みんな助けを求められても動けない。
マミヤ先生、レイナ先生のお尻ペンペンがどんなに痛くて辛いか知っている。でもそれがPCAのルール。今回は違反したつぼみがどうしたって悪いのだ。それが例え正義感に動かされた行動だったとしても・・

「ホラッ!お尻逃げないの!」

パンッ!ペンッ! ぴしゃっ!ぴしゃっ!ぴしゃっ! バチィンッ! ばっちぃ〜んっ!

「やあぁぁ〜〜んっ・・いだあぁぁいっっ・・ぴえぇぇんっ・・エンエン・・もぉっ・・いきゃあっ!・・オシリ・・がぁっ・・ひぃぃっ・・もぉゆるしてぇぇ〜〜っっ」

「悪いコ!悪いコ!悪いコ!もう2度とあんな危ないコトしないように・・」

ぴしっ!ぴしぃーーっっ! バシッ! ビシィーーンッ! ばしばしっ! びしびしっ!

「きゃうきゃうぅぅっっ・・きゃんきゃんきゃんっっ!やんやんやあぁぁ〜〜〜んっっ」

「オシリにたあっぷり教えてあげます!」

パァンッ! パァンッ! パーンッ! パーンっ! ぺんっ!ペンッ! ペーーーンッ!! 

「あぁぁぁ〜〜〜んっ・・ぅえぇぇ〜〜〜んっっ・・」

ぴしゃっん! ぴしゃっぴしゃっ! ぴしゃあぁぁ〜〜んっ!

「びええぇぇぇ〜〜〜〜んっっ・・ぴええぇぇ〜〜〜んっっ」

「泰山紅梅拳!(たいざんこうばいけん)」


泰山紅梅拳
松風レイナが、開発したお仕置き拳法の一つである。
手の平の裏と表を存分に利用し、悪いコの尻に絶え間なく痛い打撃を叩きこむ!これを喰らった子どもはその絶え間ない激痛に悲鳴がとまらなくなるという!

ビビビビビビビッッ! ビッタァ〜〜ンッ!

「ぅわああぁぁぁ〜〜〜んっっ・・ぎゃぴぃぃ〜〜〜〜っっ」



「反省したかな?つぼみ」

「ひくっ・・えくっ・・ぐすっぐすっ・・くすんっ」

抱っこされたつぼみはレイナの胸に顔をうずめてむせび泣いていた。
厳しく懲らしめられたお尻はもう真っ赤っかにポンポンに腫れあがっている。
髪が乱れ、体は脂汗まみれ、顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。

「お返事きこえないわよ?つぼみ」

「はっ・・はんっ・・せっ・・しましたっ・・ごめんなさぁ・・いぃ」

「いい?つぼみ。先生が言うことにはちゃんと理由があるんだから。いくらオリヴィエくんのためだと言ったってムチャは絶対だめ!わかったわね?」

「ハイ・・ひくっ・・えぐっ・・ゴメンナサイ・・」

優しくレイナ先生が髪と、さっきまで厳しく叩かれて、真っ赤に痛々しく腫れ上がって、ヒリヒリじんじんと鈍痛を主張しているお尻を、優しくナデナデしてくれた。

「つぼみ・・あの・・大丈夫?」

「だ・・大丈夫です・・ゴメンナサイ、オリヴィエ。恥ずかしいところを見せてしまって・・」
「い・・いや、僕の方こそゴメンネ。お尻大丈夫?痛い?」

「・・・大丈夫です・・ただ、もう今週はまともにイスに座れませんけど・・アイタタタタ・・」

そう言ってペロッと舌を出すつぼみに、オリヴィエはホッとした。


(う〜〜ん彼女らは彼女らなりに厳しい躾けをされているのか・・大変だなぁ)

離れたところでつぼみのお仕置きを目撃したサラマンダーは、しみじみ思った。

「これは、我らも一層気合を入れて働かねばならんなぁ」

「サラマンダー」

「しかし、どうするかなぁ?ザケンナー部隊あとどれくらい残ってたっけ?」

「オイ、サラマンダー」

「えっとゲキドラーゴくんもやられちゃったからあとは・・」

「オイ!!」

「うわっ!?・・ビックリした・・あっ!ジャギさんっ!」

すっかり存在を忘れていたサラマンダー。背後に突然ジャギがいたものでビックリした。

「今戻ったぞ!」

「えっ・・と、お、お疲れ様です・・で、そのゴミ袋は一体何ですか?」

「何を言っている!これから究極の悪を見せると言ったではないか!ん〜?」

「あ、そ、そうでしたね・・でももう・・」

サラマンダーがコトの成り行きを話そうとした時だった。

「ザケンナァーー!」

「なっ・・なんだ!?」

なんとプリキュアとの戦いでやられたように見えたザケンナーが背後に出現。まだ生きていたのだ。

「まだ残ってたのか!?」
「ああぁん?なんだぁこのバケモノは?」

[あ、ああザケンナーといいまして・・ってうかつに近付いちゃ危ないですよジャギさん!」

サラマンダーが注意を促した直後。

「フンッ!生意気な!俺様の他に悪はいらん!喰らえ!」

ジャギが高く跳躍した。

「北斗千手殺(ほくとせんじゅさつ)!!」

ジャギの両手の手刀が雨霰とザケンナーに降り注ぎあっという間にザケンナーを吹き飛ばし、こんどこそ「ザァ〜ケンナァ〜」と消え去った。

(ウッソオォォーーーー!!なにコノヒト!超強いじゃんっ!!)

「さあ、邪魔者が消えたところで、行くぞサラマンダー!」

ゴミ袋をもってジャギさんがダッシュした。そして、そのゴミ袋をスタジオPCAのゴミステーション前に置いた。

「ハアッ・・ハアッ・・ハアッ・・」
「あ・・あの・・ジャギさんコレは?」

「フッ・・フフフフ・・・見たか・・企業に家庭ゴミを持ち込むとは・・我ながら寒気のするほどの悪事だぜ・・」
「・・・・」

もはやサラマンダーは言葉がでなかった。

「あぁーーーっ!」

「ん?」

そんなジャギ達を遠くからひかりが見つけた!

「おいおい、アンタら!困るんだけどそんなコトされちゃあ!」
「父さん!まだいたの?それに・・だれそのヒト」

「ああ・・こちらは本日入社してくれたジャ・・」

「ついに来たぞリアクション!!ようし!そこの小娘!俺の名を言ってみろおぉーーーっ!」

「は・・ハァ?」

ジャギに指を突き付けられたひかりはワケがわからずキョロキョロ他のメンバーや先生たちを見ていた。もちろん他のプリキュアメンバーだって何の事だかわからない。
いきなり初対面で名前を言ってみろだなんてなんなんだこのヘンなオジサン。といった感想が普通だっただろう。
とその時、彼の声が上がった。

「そいつの名はジャギ」

「え?」
「え?」

バットとこまちが振り返る。

「かつて兄と呼んだ男だ」

「!!!・・・けっ・・ケンシロォォーーーーーっっっ!!!」

その背後に現れた、ケンシロウの姿を見て、ジャギも驚愕の叫びを上げた。

「え?え!?・・何っ!?知り合いかよケン!」

「ああ、我ら北斗の義兄弟。その三男だったジャギだ」

「け・・ケンシロウ先生の・・お兄様?・・の割には・・あまり仲良くなさそう・・」

「奴の方から兄弟とソリが合わんと出ていったのだ」

いつきの言葉に淡々とした口調で返すケンシロウ。つぼみもえりかもゆりもひかりも咲も舞もこまちも美希も皆びっくりの様子だ。マミヤはレイナに尋ねる。

「・・・レイナ。アナタ何か知ってた?この人の事・・」
「な・・名前だけは・・ラオウから・・そっかぁ。この人だったんだ。ジャギって・・」

「えっ?・・え!?じゃ、じゃあジャギさん、ジャギさんが言ってた追っている男って・・」

「そうよコイツの事よ!だがケンシロウ!兄弟とソリが合わないから出て行っただと?ふざけるなよ!俺が誰のせいで出て行ったのか?それは全部キサマのせいだろうが!」
「なに?俺の?」

「そぉうだぁ。忘れたとは言わさんぞぉ!あの時の屈辱・・そしてこの仮面をかぶらなくてはならなくなった素顔の恨みをぉぉ!」

「ちょっ・・ちょっとケン先生、あの人に何したの?」
「めっ・・メチャクチャケンシロウ先生に恨みありありなんだケド・・」

小声で問い尋ねるえりかと美希に、ケンシロウは記憶が無いとサラリと言ってのけた。

「ククク・・知りたいか?なぜ俺がケンシロウをそこまで憎むのか。いいだろうならば聞かせてやろう!」

そんなジャギの言葉にバットだけは小声で、「いや、別に聞きたくないから結構です・・」と答えた。もちろんジャギさんの耳には入っていなかったが・・

「思い出せケンシロウ。もう10年も前・・お前が北斗神拳の伝承者となった時のことだ・・」

ジャギさん回想。


「ケンシロウが伝承者だと!?あの、末弟のケンシロウが!?おのれぇ〜〜っ生意気なぁ〜〜〜っっケンシロウ如きが伝承者などこの俺が認めん!奴に己の無力さを思い知らせてやる!」

まだジャギも若かった頃、ケンシロウ伝承者の報に彼は怒りに震えた。そして、ケンシロウの闇打ちを考えたのだ。

「よし!奴にこの俺の北斗羅漢撃(ほくとらかんげき)をお見舞いしてくれる!ついでに含み針で眼をつぶしてなぁ・・ククク・・おおっ!そうだ!せっかくだから含み針に毒を塗っておこう・・・よし!これでさらに効果絶大!俺様頭イイ!そして、最後にこれを口に含むっ!」

と、毒を塗ったばかりの針を口に含んだ瞬間だった。

                   ボ ン っ !

「ぬぐはあっっ!?どっ・・毒があぁ!おのれケンシロウーーーっっ」

回想終わり。


「ぐっ・・ぐぐぐっ・・うぅっぐ・・」

語り終えたジャギさんは男泣きに泣いていた。

「キサマにわかるか!?その無念さが!その辛さが!!」

しかし話を聞いていた全員がシラ〜〜〜〜・・・だった。
みんなの感想はただひとつ。

《え??このオジサンがバカなんじゃん》

であった。

「アレ以来俺の顔は!くすみっ!むくみ!たるみ!ゆるみ!にきび!小ジワなどなどありとあらゆるお肌のトラブルに悩まされ続けているのだあぁ〜〜〜っっ」

(うわぁ・・・スッッゲエーー逆恨みジャンっ!)

と心の中で突っ込んだのはもちろんバットだった。

「だがケンシロウ!今日ここでキサマの命を奪い!全てを終わらせてやる。俺の恨みもこの顔の恨みもな!」

「いいだろう・・これも伝承者のさだめ・・かかって来い、ジャギ!」

「ちょっ・・ちょっとケンシロウ先生っ・・暴力はいけないですよぅ」

つぼみが構えを取ったケンシロウに声をかけたが、その時にはもうジャギが打ち掛ってきていた。

「コォ〜〜・・・この俺の速い突きを見せてくれるっ!砕けろケンシロウっ!北斗羅漢撃ィっ!!」

目にもとまらぬ腕の動きでジャギが神速の速さで突っ込んで来た!

「むっ!速いっ!」

「羅漢撃を喰らえっ!」(そして含み針も喰らえっ!)

と、ジャギが行動を起こした時だった。

カンカンッッ

小さくそんな金属音が聞こえて、ジャギの動きがピタリと止まった。
突然動きを止めたジャギに、ケンシロウだけでなく、サラマンダーやプリキュア戦士達、そしてマミヤやレイナ、バットなどが注目していた。
すると当のジャギさん。いきなりしゃがみ込んでヘルメットを抱えてつぶやき始めた。

「ちょっと待って・・・含み針が仮面の内側で跳ね返って・・・・うわ・・マジかよコレ・・血ぃ出てんじゃん・・・なんだよ・・・こんなのってないよ・・・」

そんなことを言うと、くるりと踵を返し、トボトボと力なく歩き出した。

《えええぇぇえぇぇ〜〜〜〜〜〜っっっ???》

その場にいた全員がその行動に絶句し、心の中で叫びを上げた。

「じゃっ・・ジャギさん!?」

慌ててジャギに追いすがるサラマンダー。

「ジャギさん!ドコ行くんですか?」

「・・・帰る・・」

「えぇ!?かっ・・帰るの!?あんなに勇ましくこき下ろしたのにっ?帰るの?」

「うん・・・帰るの」

「・・・・・・・」

2人寂しく夜の闇に消えていく、その姿に、誰も声をかける者はなかった。

(テンションだだ下がりで帰って行ったああぁぁーーーーっっっ)

バットはその姿に、悲しいほど残念な人だな・・・と哀れに思った。

「あ・・あのさ、つぼみ、みんな」
「え?・・あ、ハイ・・なんですかオリヴィエ」

「あ・・あのさ、帰ろうか」

「そうだね・・・帰ろ♪」

えりか、つぼみの言葉に、みんなが賛成し、バイバ〜イ!また明日ね〜と帰って行った。もはや仮面の悪党、ジャギを覚えている者はいない。

「ジャギ・・・北斗の誇りを忘れた愚かな兄よ。しかし忘れるな、それでもお前は俺の兄なのだ。コレに懲りて少しはマトモになれ」

ただ1人、2人の去って行った方を見ながら独り言を言っていたケンシロウ。それにすかさず心の中で突っ込んだバットが残っていただけだった。

(お前の兄弟にマトモな奴なんかいねえだろっっ!)


 ヘルメット

    つけて根性

       ヘルモット


                 つ づ く